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「嵐のように去っていったな。次に会うのはいつになるんだか」
「もう会えなくていいよ」
ムスッと答えると食器を洗い始めた少女。
「初めて会ったときは、お前、わりと繭から離れなかったのにな」
「いつの話してるの?」
「なんだろう。これまで色んなことがあったが。僕の中で、あの夏の思い出って特別で。ふと思い出すこともあれば夢にだってでてくる」
「それは……わたしもだよ?」
少女が、ヨイチを振り返る。
「ヨイチと出逢った夏だもん」
「手のかかるヤツだった」
「水族館からの帰り道。僕の手を離すなって言ってくれたヨイチかっこよかったな」
「よくそんなこと覚えているな」
「おっきくて、あたたかくて。好きだなあって思った」
「はは。汗ばんでただろ」
「あの頃は、毎日、仕上げの歯みがきしてくれてたね」
「お前なにひとつまともにできなかったからな」
「トイレは行けたよ」
「そこだけは助かった」
「……ごめんね」
「なにが」
「ヨイチには青春がなかった」


