キミ観察日記

 少女の頬に、一筋の涙が伝う。

「おかげでわたしは呼ばれる度に胸が締め付けられる」

 少年が、呆れたように少女の涙を拭う。

「よく言うよ。いつだって苦しんでるクセに」
「センセイはね。あの夏、子供のわたしに何度も呼びかけたの。愛しそうに。紅花さんって」
「センセイは人に好きなように名前をつけるのが趣味だ。どうせ気まぐれだから深く考えんな」
「……気まぐれとかじゃないと思う」
「オレなんて繭だぞ。あの蚕とか昆虫が作る白いやつ。キモいだろ、普通に考えて。言っちゃなんだがセンセイはネーミングセンスがゼロだな」
「マユにピッタリだね」

 少女が頬を緩めたのを見て、少年が安堵する。

「あ? ケンカうってんのか」
「繭っていうのは。丈夫で、外敵から身を守ってくれるでしょ? でもその内側は優しくて。柔らかく包んでくれて。快適なんだって」
「……オマエ。今オレのこと好きって言ったか?」
「言ってない」
「抱いて欲しいのかと」
「チャラい。サイコパス。不良」
「うるせえ。慰めてやるよ。寂しいんだろ」