「2人とも、忘れ物はない?」




「たぶんないよ…!!」


「ないと思います」




次の日のお昼過ぎ、とうとう帰る時間に。
荷物を持って、




「また遊びに来るね!!」




と玄関でお母さんに言った。




「待ってるわね。
夜瀬くんも、また花莉と一緒にいつでも来てね」




お母さんは私と詩優を見て、優しく微笑んで。




「はい。ありがとうございました」


「またね、お母さん!」




私と詩優はアパートを出て、お母さんが見えなくなるまで大きく手を振って。
歩いて駅へ。





「昔、なんて呼びあってたんだろうだろうな」




電車の中で詩優が言った。
…確かに、すごく気になるところ。




「“しゆうくん”、とか?」




名前にくん付け。
今では呼び捨てで呼ぶことに慣れてしまったから違和感しかないけど。





「じゃあ俺は、花莉のこと“はなりちゃん”って呼んでた?」




どちらも違和感。
昔のことだからわからないけど…もしかしたら、




「前から呼び捨てだったかもしれないね」




なんて。
その可能性はあるだろう。




「そうかもしれねぇな」




そんな昔の予想をしながら電車に揺られて、気づけば眠っていた。

しっかり、詩優と手を繋いで…。