空木さんが通り過ぎた時に小さく聞こえた声は…
「素敵な初恋をありがとうございました」
という言葉。
結局私は何も言うことができず、空木さんの後ろ姿をただ見送った。
…胸が痛い。
私が詩優を好きなことで詩優のことを好きな人が泣いて傷ついて。
自分の幸せは誰かの不幸の上で成り立っている、って深く実感させられる。
その人たちのことを考えると胸が痛い、けど……
私は詩優の手を絶対に離したくない。
繋いだ手をさらにぎゅっと強く握ると、詩優も強く握り返してくれる。
そしてその手を強く引かれて、私たちも屋上のドアへと向かって歩く。
すると、ドアの近くにいた空木と久我と目が合った。
「ことが収まるまで、空木には雷龍のほうで護衛を1人つける。
もちろん空木には気づかれねぇように気をつけるから」
詩優は目の前の2人にそう言って、屋上のドアへと手をかけたところで…。
「だったら俺らも雷龍に入れてよ~」
と聞こえてきた空木の声。



