「一華さん」
自分のデスクでボーッとしてしまった私に、可憐ちゃんが声をかけた。

「ごめん、どうした?」
「今日の一華さん、変ですよ」

うん。自分でもわかっている。
今日は朝から調子が悪い。
その理由だってわかっているけれど・・・

「おい鈴木。これ、なんだ?」
部長の呆れたような声。

へ?
重たい腰を上げて私は部長の下に駆け寄った。

「お前、大丈夫か?」
え、えーっと。
「この書類、宛先も数字もめちゃくちゃだぞ」
「あ、すみません」

一見して間違いのわかる書類。
こんなもの上司に提出するなんて。

「鈴木、疲れているんなら今日は帰れ」

普段なら怒鳴り散らされるところだろう。でも、部長の声は優しい。

「すみません。大丈夫です」
「そうは見えないぞ」

「すみません」
他に言葉が見当たらない。

確かに私は疲れている。
疲れていると言うより弱っているのかもしれない。
いろんなことがいっぺんに起こりすぎて、どうしていいのかわからない。

「とにかくこの書類は作り直しだ。急がないから明日の朝出してくれ。いいな」
「はい」

書類を受け取り、私は自分のデスクに戻ろうとした。

「鈴木、ちょっと来てくれ」

今度は別の方向から声がかかる。
それも、今1番顔を合わせたくない人。
無視してみようかとも思ったけれど、ここは職場で、彼は上司で、私に拒否権は無い。

「いいから来い」

わざわざ私のそばまで来て手にしていた書類を奪うと、強めの口調で言う。
こうなったらついて行くしかない。