「夕方には帰ってくるから
夕食は一緒に食べましょう?」

桜さんがピアスをしながら
洗面所から
声をかける

俺は新聞を読みながら
朝ごはんの菓子パンを
頬張っていた

「忙しいなら
夕飯は一人で食べるけど?」

「最近
すれ違ってばかりだわ

今夜は
一緒に食べましょ」

桜さんは
小走りでダイニングに入ると
俺の顔を触って
額にキスを落とした

「無理しなくて
いいから」

「じゃ、行くから」

「うん」

俺は玄関で
桜さんを見送った

ブラウンのハイヒールを履き
桜さんは
家を飛び出して行った

玄関のドアが静かに
閉まった

サンダルに足を引っかけて
ゆっくりとドアを開ける

マンションの共同廊下に出て
下を見る

マンションの駐車場が見え
黒い車が1台

中途半端な位置に停まっていた

その車に
桜さんが
近づく

満面の笑みを浮かべて
桜さんは窓から手を振り

そして
乗り込んだ

新しい男だろう

俺と同棲を始めて
1ヶ月も経たずに

桜さんは事務のパートを始めた

そしてすぐに
男ができた

パート先の若社長だ

毎日のように
黒い車で迎えに来ていた

今日は日曜日なのに
出かけて行った