婚約者は、この町で1番大きい瀬王病院の跡取り息子。




瀬王翼〈セオウヨク〉、それが彼の名前だ。




歳は私の2つ上で、高校3年生。




ゆくゆくは、医者になるお方だ。




「相変わらず勉強ばっかか?」

「そうですね。他にやることがないので」

「将来なんになるつもりだよ」

「·····特に、考えてないです」

「まぁ、廉は俺の嫁になんだから。家庭に入ってもらうけど」




父と彼の父が幼なじみなのだと聞いた。




その縁で、あの人と別れた私に、彼を婚約者だと紹介された。




『私の友人のご子息だ。廉をたぶらかしたあんなやつのことは早く忘れろ』




その日から、私が恋をするという権利は奪われたも同然。




決められた未来。




それから、極力周りともかかわり合おうとしなくなった。




その人との今があっても未来はないのだから。




それならいっそ、私はずっと孤独でいい。




福智と関わるまでは、そう思っていた。