「ん、ごほっ!えーっと……」



しかし、颯馬さんの空咳でロマンチックな時間は終わりを迎える。


そして同時に思い出す。ここは狭い車内であると。



「あ……その、あの……!」

「……邪魔すんな」

「すいやせんね、剛が運転に集中できないんで。
ここじゃなくて家で好き放題やってもらえやす?」

「あ、いや、俺は別に……!」

「あ?見なきゃいい話だろうが。
お前らには関係ねえ。な、壱華」



顔は真っ赤にしどろもどろのわたしに反し、イラつきを隠さない志勇と、驚きを隠せない剛さん。


そしてなぜかヤーさん口調の颯馬さん。



「そ……」

「ん、なんだ」



いったいぜんたい何をやってるんだとパニックになったわたしは、無理やり志勇から視線を外した。



「颯馬さん!席変わってください」



からの自分でも意味不明な発言。


走行中なのに移動できるわけないじゃん。



「え、俺?いいよー」

「ふざけんな断固拒否だ。
颯馬も最近調子乗ってんじゃねえ。
てめえの仕事倍増させるぞコラ」

「うわ、すみませんでした。
だけどほーんと、兄貴がここまで人に執着するなんてあいつ以来かな。

……せめて、司水の二の舞にならないよう祈るよ。
さすがの俺でも代わりはできない」


「させねえから、安心しろ」



軽くノってくれた颯馬さんだったけど、途中で声を落とし、前方を見ながら頭では何か違う事を考えている様子。


司水さんの二の舞って、どういうこと?



「つーか、てめえが壱華の代わりとか想像させんな。キモいことこの上ない」

「俺だって同意見だし、おえぇ」



知らないことがある。


知りたいことがある。


早く知りたいのなら、自分から動かなくちゃ。


けれど急かせば急かすほどに、 それは残酷な牙と化す。


『急がば回れ』


わたしは、そこでひとつ道を間違えた。