じっと見つめられていることに気がつく。

 なに。

 どうしたの。

「僕は。結婚相手が決まっている」

 ――――!

「親同士の強い希望で、意志と関係なしにそういう間柄になった」
「いつから?」
「生まれてすぐ。物心つく前には」

 それじゃあ

 中学の頃には、その子との将来が約束されていたことになる。

「僕としては。美人で頭のいい女と契りを結ぶことに特段不満もなくて」
「……うん」
「敷かれたレールを進むことにだって抵抗はなかった」
 
 チサトは、家業を継ぐ気でいる。

「それでよかったんだ。むしろ順調すぎた」
「……っ」

 チサトの手が頬にあてられ

 夏なのに、ひんやり冷たく感じた。

「纐纈が近づいてさえこなければ」

 それはチサトの体温が低いせいなのか

 わたしが火照ってしまっているせいか

「まわりくどいのは好きじゃないから単刀直入に言う」

 わからないくらい

「纐纈と恋がしてみたい」

 状況に、頭がついていかない。