「俺のジャージ貸してあげる」

 成澤が、長袖の上着をわたしの肩にかけてくる。

「別に……」
「ダメだよ。風邪ひいちゃう」

 こういう気遣いできるあたり、モテるのかなとも思う。

「まだ着てないから綺麗だよ」
「……ありがとう」
「あ。脱ぎたてホヤホヤの方がよかった? 今からあっためようか?」

 前言撤回。
 やっぱりこの人めっちゃ気持ち悪い。

「絶対にイヤ」

 袖を通すと少しだけ寒さがマシになった。

 それでもまだ震えるようなーー気分的には雪国にでも来た感覚。

 とはいえ、

「……広いね」

 目の前の、生まれて初めてみる実物大のリンクには正直テンションあがる。

 テレビでしか見たことないもん。

 フィギュアスケートで使われているイメージが強い。

「ここで生足は、キツそー」

 そりゃあな。

 マネージャー二人は既に長袖のジャージに着替えている。

 学校名がプリントされたそれは、まさに運動部という感じだが、もっと着込まなくて平気なの?

「細いもんなあ。エリナちゃんは」
「じっと見るな!」
「もっと肉つけたらー?」
「……うるさい」
「でも」

 成澤の視線が足元から上がってきて胸元で止まる。

「よく育ってるよねえ」
「どこみて言ってんの、ヘンタイ」
「Fとみた」
「……っ」

 セクハラ大魔王をスルーして、鞄から体操着の長ズボンを取り出して履いた。