#26 居場所


「天津さんはフィギュアを習っていたので、スケーティングの基礎を指導することができます」

 氷上練習が開始して5分くらいたった頃、顧問のフジオがリンクに姿を現した。

 重役出勤かよ。

 なんて考えていたら、

『藤くんが顔を出すなんて珍しいね』

 と、藍さんからとんでもないことを言われていた。

 練習に来ないのがデフォなのか?

「彼女はアイスホッケーは素人同然で、ルールも勉強中ですが。そこに大きな強みがある」

 カッコいいなあ、天津さん。

「あの、フジオ先生」
「はい」
「わたしの入部届け。受け取ってくれますか」

 藍さんみたく選手の管理が行き届いているわけでもないし、天津さんのようなアドバイスする力もないけど。

「はい」
「ありがとうございます……!」

 確証とやらは得られたんですね?

「猫の手も借りたいですからねえ」
「言ってること違うじゃないですか」

 保健室でのアレは、なんだったんですか。

「わたしに選べって感じで言いましたよね。入部するか恋愛するか」
「それは――君が大きな勘違いをしているようだったので――そうさせておく方が愉快だと思い、乗っかってみました」

 やっぱりわたしが騙されてること気づいてたんだ。

 キチク顧問め。