今、こんなお願いするのは間違ってる。

 けれど考えてしまう。

 さっきまで違う男の腕の中にいたわたしのこと、もう抱きしめたくないとか思われてたらどうしようって。

「俺は、ずっと」

 ――――!

「自分を我慢強い人間だと思ってきた」

 腕を引かれ、アイツの胸に顔をうずめる。

「だけど。お前のことになると――無理だ」

 わたしを抱きしめる腕に力が入るのがわかった。

「ここにキスされたんだろ」

 そういって、当麻氷河が細く長い指で首元に触れてくる。

「なんで……それ……」
「あの人、わかりやすく煽ってくるよな。そのくせ自覚ないのがタチ悪い」

 ――なに、これ

「ん……」

 今までで一番、強引なキス。

「口あけろ」
「待っ……」
「そんな顔したのかよ。ナリさんの前でも」

 してないよ。

 わたしがあんたに見せる顔があるとしたら、それは、あんただけのものだ。

 頭の後ろにまわされた手で、しっかりとわたしを離さないようにおさえてくる。

 これじゃあ、息、できない。

 苦しくなってきたとき、

「スイッチ入りそ」
「……え」
「ここが部室でなきゃ襲ってた」

 当麻氷河が、わたしを離した。