夏樹と空の恋物語


 カフェテリアから少しイライラした気持ちで出て来る空。

「藤野山さん」


 声をかけられ振り向くと、そこには力也がいた。


「部長…どうされたのですか? 」

 いつもと変わらない態度で空が言った。

 力也は周りに人がいないことを確認すると、空の肩を抱いた。


「ちょっと…」


 空の肩を抱いたまま、そっと脇道の通路に入ってゆく力也。


 死角になる通路は誰もいない。



 力也はいやらしい手つきで空の顎をとった。


「…最近ご無沙汰じゃん。今夜会えるか? 」

「今日は…ダメな日なんです…」

「はぁ? お前、この前もそう言ってたじゃないか」

「そうですが…ちょっと長引いていて…」

「それでも構わないぜ。どうせ、濡れ濡れになるんだからさっ」


 ペロっと、空の耳を力也が舌先で舐めた。


 ヒッ…。
 
 空は気持ち悪そうに顔をしかめた。

「お前だって、俺が欲しいだろう? いつも、お前はすげぇから。俺、すぐ寝ちまうし。今夜は寝ないからさっ」


 嫌らしい目をして、スーッと力也は空のスカートの中に手を入れてきてた。


「やめて下さい。ここは職場内ですから。誰かに見られたら、困ります」

「誰もきやしねぇって。ここは死角なんだ」

「い、嫌…」


 嫌がる空を無視して力也は、どんどん空のスカートをまくり上げてゆく。


 下着の隙間から力也の手が空の中に入ってきた。

 と…


「藤野山さん! どこにいるの? 」


 呼ばれる声がして、力也の動きが止まった。


「藤野山さん! …あれ? 声がしたんだけど。どこだろう? 」


 声の主は夏樹だった。


 なんで探されているか分からない空。


「チッ。副社長かよ、なんでお前が呼ばれるわけ? 」

「し、知らない」

「ったく邪魔しやがって。今夜駅前で待っているからな」


 舌打ちをして、力也はその場から去って行った。


 空は助かったと思い、安心してその場に座り込んでしまった。


 
「あれ? 佐久間部長。どうしたんですか? こんなところで」

 夏樹に声をかけられると、力也は愛想笑いを浮かべた。

「いえ、なんでもありません。ちょっと、用事で」


 愛想笑いを浮かべて、力也はそそくさそうに去って行った。




 
 しばらくして。

 空が通路から出てきた。

 ちょっと青い顔をしている空。


「あ、藤野山さん」


 空を見かけて夏樹が声をかけてきた。

 
「藤野山さん、ちょっといいかな? 」

「なんですか? 」

 
 ちょっとイラっとした声で空は尋ねた。

 いつもと様子が違う空を感じた夏樹は、空の顔を覗き込んだ。


「どうかしたの? 顔色悪いよ」

「別に…」

 
 夏樹はそっと、空の額に触れた。


 バシッ!

 額に触れた夏樹の手を、空は思い切り叩いた。


「藤野山さん。どうかしたの? 」

「…私なんかに、構わないで下さい! 」

「え? 」



「副社長? どうしたんですか? 」


 女子社員の崎山がやってきた。


 その声に、空はまたイラっとした。



「崎山さん、どうしたんだい? 」

「いえ、何か困っているようだったので」


 空はイラっとして、その場を走り去った。

「あ、藤野山さん! 」


 いつもと様子が違う空に、夏樹は何か胸騒ぎを感じた。