夏樹と空の恋物語


 2人が歩いていると。


「あれ? 夏樹? 」

 ふと声がして夏樹が振り向くと、そこには一樹がいた。


 かっちりしたスーツに、厚手のコートを羽織っている一樹はどこかのエリートに見える。


「兄貴、どうしたの? こんなところで」


 空は初めて会う一樹を見て、夏樹と似ているがまるで違うタイプの一樹にちょっと驚いていた。


「俺の事務所、この近くなんだ」

「え? そうなんだ」

「ああ。ところで、この子が夏樹の奥さん? 」

「うん、空だよ。初めてだったよね? 会うの」

「まぁな。結婚式、まだだし。親族の顔わせもしてねぇし」

「ごめん、ごめん。お正月休みにでも紹介しようって思っていたんだけど」

「ふーん…」


 ちょっと見下した目で空を見ている一樹。

 空はそんな一樹の視線がちょっと怖くて俯いた。


 一樹はフッと笑った。


「夏樹の好みのタイプって感じしねぇけど。まっ、お似合いなんじゃねぇの? 」

「ちょっと兄貴。そんな言い方するなよ」

「あ? わりぃなぁ。俺、女は面倒だから興味ねぇから」

「そんな事ばかり言ってないで、兄貴もいい人見つけなよ。仕事だって落ち着いて来たんでしょう? 」

「仕事は落ち着いた。だが、俺に女は必要ない。んな面倒なもんいらねぇよ」

 どことなく、可愛くない一樹。

 夏樹はちょっと呆れて溜息をついた。


「まぁ、夏樹の人生は夏樹のもんだ。幸せになれよ。なんかあれば、いつでも俺に相談来い。じゃあなっ」

 言いたいことだけ言って一樹は去って行った。


「ごめんね、嫌な思いさせて」

「ううん。とっても正直な人なのね」

「兄貴は口が悪くて、思った事を率直に言う癖があるんだ」

「そうなんだ。夏樹さんとは、正反対なのね」

「うん、僕と兄貴は真逆って言われてるんだ」

「そうなんだ。でも、一樹さんってまだ心から好きだと思える人に出会っていないのね」

「そうなんだと思う。ずっと、弁護士目指して頑張ってきたから。恋している暇なかったと思うから」

「弁護士さんなんだ。素敵ね」

 
 手を繋いで、話しながら夏樹と空は歩いて行った。