「な・何なのあの態度」

 去り行く空を、崎山は睨みつけていた。

 後ろにいた女子社員は、ヒソヒソと何かを言っていた。




 カフェテリアから空が出て来ると、偶然にも忍がいた。


「お疲れ様、藤野山さん」

 声をかけられると、空は深く頭を下げた。

「お疲れ様です、社長。…先日は、失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」

「ああ、あれは私も悪かったから気にしないで」

「はい、すみませんでした」

「ねぇ…空ちゃん…」

 
 名前を呼ばれて、空は驚いて忍を見た。


「あ、そんなに驚かいないでよ。私の中では、もう、娘のようなものだから」

「え? …」


 ちょっと赤くなって俯く空。

 そんな空を見て、忍は可愛いと思った。


「空ちゃん、今度の休みに。夏樹と一緒に、我が家に来てくれるかい? 」

「え? いいんですか? 」

「もちろん、大歓迎だよ」

「夏樹さんと相談してみますね」

「ああ、待っているから」

「はい…」


   
 穏やかな空気が流れている。

 それはきっと空自身が変わったから。


 空は強くなろうと決めた。

 今まで雅の事の出引け目を感じていたが、雅の無罪も証明され、過去はもう終わった。

 空もいつまでも過去に引きずられるのはやめようと決めた。

 夏樹を好きな気持ちに正直なり、前を見ようと決めたのだ。


 
 


 だんだんと周りの人達とも話をするようになり、仕事中も笑うことが増えてきた空。


 夏樹とは空の家で同棲生活を送るようになった。

 夏樹の家に行っても良かったのだが。


 実は夏樹の家には、兄の一樹がアメリカから帰ってきて住むようになったのだ。

 夏樹は恋人がいることを一樹に話したが「それならお前が彼女の家に行けばいいだろう」と一樹に言われてしまったのだ。

 兄の一樹は夏樹とは正反対のタイプで、俺様タイプ。

 いつも自分中心の生活をしている人で、遺書に生活するには夏樹にはちょっと大変だった事もあり、空の家に住むようにしたのだ。