「母さん、有難う。とても助かったよ」
「いいえ、お役に立てて良かったわ。そういえば彼女の名前、教えてもらってなかったわよね? 」
「空っていうよ」
「空ちゃん? 可愛い名前ね」
洗濯機に着替えたパジャマを入れて、戻ってきた樹利亜は夏樹が作った小粥に気づいた。
「あら? おかゆ作ったの? 」
「うん。母さんが作ってくれた小粥を真似してみたんだけど、どうかな? 」
樹利亜は鍋にある小粥をちょっと味見してみた。
「うん、とっても美味しい。これならきっと、元気が出るわよ」
「よかった」
「さっき着替えさせたとき、目が覚めたみたいよ。声かけてきたら? 」
「うん」
夏樹が寝室にくると、空が目を覚ました。
「気分はどう? 」
「…はい…随分と楽になりました…」
まだ力ない声で空が答えた。
「疲れが出てんじゃないかな? 今まで、頑張ってきたからね。ゆっくり休めばいいよ、元気になるまでずっと傍にいるから」
空はじっと夏樹を見つめた。
「どうしたの? 」
ベッドの端に腰かけて、夏樹はそっと微笑んだ。
「…怒っていませんか? あんなメール送ったのに…」
「怒ってないよ。ぜんぜん」
優しい笑みを浮かべて、夏樹はそっと空の頭を撫でた。
「びっくりしたけどね。でも、メールの文を冷静に読んでいたら。文章の向こうに、空さんのとっても悲しい気持ちが見えたから。これは違うって、そう思えたんだ。だから、返信しなかったでしょう? 」
「…はい…」
「空さん、もう前を見て歩こう。誰のためでもない、自分の為に。自分が幸せになるために、正直に生きればいいんだよ。空さんのお母さんも、そう願っているよ」
「母も…やっと幸せに、なれたと思います」
「そうだね。やっと、穏やかな笑顔を見せてくれたよ。そして、素敵な男性と一緒にずーっと空高く昇って行ったよ」
「素敵な男性…。お父さんかな? 」
「そうかもしれないね、ちょっと空さんに似ていたから」
「…はい…」
安心したように、空は素直な笑顔を見せてくれた。
その笑顔に、夏樹はとても喜びを感じた。
「ねぇ、何か食べれそう? 」
「そう言えば…昨夜から何も食べていませんでした」
「お粥作ったんだ。食べると元気になれるよ」
「はい…」



