忍はなんとなく、13年前の事件と今回のFAXが重なって見えていた。


 13年前の事件の犯人は、藤原雅(ふじはら・みやび)35歳。

 営業部所属の社員。

 夫を亡くして1人で子育てをしている、とても優しい女性だった。

 綺麗な黒髪が腰まで届くくらい長く、いつも綺麗に編み込みをして後ろでまとめて、とても上品な顔立ちをしていた雅は、他の男性社員からもとても好感度が高かった。


 交際を申し込まれても誰とも交際しない雅。


 そんな雅に、力也もとても親切にしていた。



 だがある日。

 雅は力也の家に押しかけて、産まれたばかりの子供を殺したことで逮捕された。


 騒然となった宗田ホールディング。

 
 雅は否定していたが、力也が「家に押しかけてきて、いきなり子供を刺殺した」と証言した。

 雅は「どうしても用事があると言われ、家に呼ばれて行っただけで。急に眠気が差してきて、気づいたら手にナイフを持たされていた」と言っていた。

 しかし取り調べに疲れはてた雅は、食事で使用したプラスチックのスプーンを破壊して、とがった先で手首を切っって自殺した。



 被疑者死亡で幕を閉じた事件だったが、腑に落ちない事ばかりだった。




 忍は事件の直前に、雅に会っていた。

 雅は大切な話しがあるから、時間を作って欲しいと忍に頼んでいた。

 その日は忍は他の予定があり、後日時間を作って話す約束をしてた。


 もしかしてあの時、すぐに話しを聞いていれば事件は起こらなかったのだろうか?

 忍はちょっと後悔していた。