だが…。
キスをしてくれた夏樹から伝わるエネルギーが、とても心地よくて。
空はギュッと夏樹にしがみついてしまった。
ゆっくりと唇が離れると。
空はどんな顔をしたらいいのかわからず俯いた。
「…ごめん…」
「謝るのは…気持ちがなかったからですか? 」
「違うよ。…突然だったから…怒らせてしまったかと思って…」
「…上がってください。…せっかく、来て頂いたので…」
「いいの? 」
「はい…散らかっていますけど…」
リビングに通された夏樹は、広い部屋のわりにはあまり荷物もない空の部屋に、ちょっと驚いた。
だが、きれいに片づけてあり、キッチンもとても綺麗で、掃除もきちんとしてあることに感心した。
「どうぞ…」
空が夏樹に温かい緑茶を入れてくれた。
「ありがとう」
緑茶を一口飲むと、とてもいい味がした。
「おいしいね、このお茶」
「…母が好きだったお茶なんです。…ずっと、そのお茶を飲むと落ち着くので…」
「そっか…」
夏樹は空の後ろを見てそっと微笑んだ。
「お母さん、とても喜んでいるよ」
「そうですか…」
「ねぇ、僕が誰かと付き合っているって思ったんだよね? 」
「はい…」
「僕は、5年間ずっと誰とも付き合っていない。なんとなく、心を動かされる人がいなくてね」
「…そうですか…」
「でも、空さんを見たら。胸がキュンとなって、ずっと忘れられなくて追いかけてしまったんだ」
まだ少し、空の中では信じられない気持ちもあった。
だが、夏樹はとても誠実で嘘をつくようには思えない。
とりあえず…信じてみようかな…。
なんとなく、空はそう思った。



