惺くんの音は優美で甘くとろけるような音。

聴いていると、心が満たされ、幸せな気分になる。

あの頃よりも格段に上手くなった惺くんが弾くきらきら星変奏曲を私はうっとりしながら聴いていた。

同じ曲でも弾く人によって全然聴こえ方が違う。

それが音楽。

だからこそ面白いんだ。


きらきら星変奏曲を途中まで弾き、急に弾くのをやめた惺くん。

今度はショパンのバラードを練習し始めた。

ショパン.....か。

きっと惺くんはショパンコンクールに出るんだろう。

私が出ることはもうきっとないけど.....。

でも.....

先生との大切な約束。

そんな簡単に放棄できるはずもなく、ずっと心につっかえていた。


「おい、おい!」

突然惺くんの声がし、ハッと我に返る。

考えごとをしていたせいで気づかなかったらしい。