「紗夜〜!そろそろ行くわよ。準備してちょうだい」

「はーい」

先生に促されてピアノの蓋をしめ、楽譜を鞄に入れて、ドレスを取りに行く。

前の日からハンガーにかけてあった濃いピンク色のロングドレスをぎゅっと抱きしめてからスーツケースに詰め込む。

そのドレスもまた誰かから届けられたものだった。

こんな高級なドレス、私の家は買えるわけなかったから本当に嬉しかった。


「お母さん!行ってきます!」

「いってらっしゃい。がんばってね」

「うん!」

「先生、よろしくお願いします」

「はい、お預かりします」

仕事で忙しいお母さんとお父さん。

何回か見に来てくれたことはあったけれどその日は朝早くから出勤したお父さんだけでなく、お母さんも仕事が入っており、見に来ることはできないと言われていた。

少し寂しかったけどお母さんとお父さんが私のために働いてくれていることはわかっていたし、先生がいたからそれでよかった。

そしてそのままお母さんと別れ、先生とコンクール会場に向かう。