ハッと顔を上げたときにはもう先生はいなかった。

「紗夜?ボーッとしてたけど大丈夫?」

「う、うん」

どうして先生は.....。

あれは確かに先生だった。

絶対に私の幻想なんかじゃない。

.....胸騒ぎがする。


プルルルルル プルルルル

無機質に響く電話の呼び出し音。

.....お願い、早く出て。

桐花さん.....!

「紗夜?本当にどうしたって言うのよ」

みんなの心配の声さえ、入ってこなかった。


7コール目になり、呼び出し音が止んだ。

「.....はい」

「紗夜です。あの.....」

「.....姉さんが死んだわ」

「.....え」

嫌な予感は当たってしまった。

「この間から容態が悪化していたの。紗夜さんのファイナルの演奏を聴きながら、安心したんでしょうね。意識がないはずなのに一瞬微笑んで、姉さんは逝った」

「.....そんな」

「優勝おめでとう。聞いてるわ。辛いだろうけど帰ってきてはだめよ。姉さんのためにも入賞者コンサートまでをしっかり全うして」

「.....」

電話を持ったままその場にへたりこみ、泣きながら絶叫した。