オーケストラの演奏を聴きながら、気分が最高潮に上がっていた。

もう少し、もう少しで私の入るところだ。

私は大きく息を吸い込み、オーケストラと息を合わせて、最初の音を鳴らした。

ああ、楽しい。

オーケストラをも私の演奏の1部として私だけの“色”を作り出す。

どこまでも私についてきてくれるオーケストラ。

だから私は自分の演奏を思う存分できる。


先生の音。

それはキラキラした星のような音。

あのとき見た星のように。

でも星の中でもいろんな“色”がある。

その色を作り出すんだ。


ショパンが見たワルシャワの景色を私も見た。

ショパンが感じた恋の楽しさと苦しさを私も感じた。

ならばショパンの思いに応えよう。

今まで見た全ての景色を、今まで感じた全ての感情を今こそ演奏に。

.....先生を奪われた憎しみの感情さえも。



私はピアノの蓋に満足そうに笑う先生の姿を見た気がした。