「10番 アメリー・ニコラ。フランス」

この人の演奏をずっとこの目で見てみたかった。

ついに今日、それが実現する。

舞台に出てきたアメリー・ニコラは想像と全然違った。

色褪せたワンピースにボロボロの靴。

まるで昔の私だった。

ただピアノが好きで、先生が好きでとにかくピアノばっかり弾いていたあの頃。

私はあの感覚を忘れている.....?


そして始まった演奏。

バラード1番の哀愁を漂わせたような音色が鳴る。

右手のメロディーを女の人が物悲しく歌い上げるその場所に私たちを引き入れる。

それは正しく私が求めていた演奏だった。

―――ピアノと一体化している。

そして私たちを自分が見る光景に巻き込んでいく。


続いて軽快に始まった子犬のワルツ。

難易度が低いはずなのになぜこの曲を.....。

観客達の疑問を他所に子犬は走り回り、転げ回り、ふいに止まり、また走り出す。

動揺する観客を見て笑い転げるように。

ああ、私はあなたの演奏に、あなたの子犬についていけるだろうか。


見ているこっちが息切れしてしまうような演奏を終え、一息つくとまた次の曲を弾き出したアメリー・ニコラ。

曲は英雄ポロネーズ。

兵隊が勇猛に行進していく。

もうそこはコンクール会場ではなかった。