第1次審査3日目

「おはよう、森本紗夜さん」

声をかけると驚いた顔をしてこちらを振り向いた少女。

この子があの天才少女だなんてね。

「おはようございます。なぜ私の名前を.....?」

「昨日、ショパンコンクールで見たからさ。素晴らしい演奏だった」

「ありがとうございます」

口でこそお礼を言っているものの表情は翳っている。

「でも昨日の演奏は君がしたい演奏じゃないんだろ?」

「はい。あれは先生の真似をしただけです」

「本当の君の演奏が楽しみだよ」

「あなたは.....詳しいんですか?」

「まぁそういう仕事だからな。そろそろショパンコンクールも始まるから私は行くとするよ」

「はい。さようなら」


あの子は私が審査委員長だとは思いもしないだろうな。

さぁ、そろそろ仕事に行こう。