誰もいない階段を見つけ、静かに座り込んだ私。

私の人生を狂わせたあのひとがなぜここに.....っ。

ずっと考えないようにしてきた。

考えるだけで忌々しいから。

でもそうは言っていられない。


あの人の名は.....

森本慎哉(もりもとしんや)。

―――私の兄だ。



ことの始まりは確か私が4歳のときのこと。


私には5歳年上の兄がいた。

周囲が羨むほど、仲がよかった私とお兄ちゃん。

でもある日を境にお兄ちゃんは豹変した.....。


共働きのお母さんとお父さん。

私の幼稚園のお迎えはそんな2人に代わって小学4年生だったお兄ちゃんがしてくれていた。

その日もいつも通りのお兄ちゃんのお迎え。

「紗夜ちゃんばいばい」

「ばいばーい」

「紗夜、行くぞ」

「うん!」


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。あれなぁに?」

何か黒い塊みたいなものが小さくうごいていた。

「ん?」

お兄ちゃんの後ろから恐る恐る私もそれに近づく。

「これは.....」

「なになに?」

「猫だ。弱りきっているな」

「猫?.....やだよ」

動物が嫌いだった私。

野良猫.....しかも死にそうな猫に近づきたくなかった。

「このままだと死んじゃう。1回家に連れて帰ろう」

「え!?やだやだ!ほんとにやめて!お兄ちゃん!」

お兄ちゃんは優しかった。

もう命の灯火が消えそうな猫に手を差し伸べるくらいに。

「.....あとでくるからな。頑張るんだぞ」

お兄ちゃんは仕方なくその場に猫を置き、優しく言葉をかけた後、私の手を引いて家に向かって歩き出した。