「第32回幕張国際音楽コンクール予選会を実施致します」

今日はいよいよ本番。

いつもの国内コンクールよりも外国人の数が目立ち、緊張を余計に掻き立てる。

1人になれる場所が欲しくて、会場を抜け、ロビーに出る。

「げっ」

そこにはカメラを構え、マイクを手にしたたくさんの報道陣たちが。

「森本さん!今日の意気込みを教えてください」

最悪な人たちに遭遇してしまった。

逃げても逃げてもついてくる。

しつこいな.....。

「私はこれから本番なんです。集中したいので後にしてもらえますか?」

「一言だけでも!」

急いで控え室に駆け込み、報道陣の目の前でバタンと扉を閉めた。

「ふぅ.....」

これを振り切るだけで一苦労だ。

「ここ男性控え室ですよ〜」

「え?」

控え室にいた誰かの言葉でハッとして扉をみると“男性控え室”と。

「わぁ!ごめんなさいごめんなさい」

「今は俺一人しかいないから大丈夫ですよ」

「ありがとうございま.....っ!?」

この人は.....。

「気づいたみたいだね、紗夜」

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

ニヤリと笑ったその人から全力で逃げる。

どこか1人になれる場所は.....っ。



―――私は知らない。これはまだ悪夢の始まりでしかないということを。