「サヤ。どうしてキミはエチュード10ー4と10ー12をを持ってきたんだい?今日持ってくるように言ったのは25ー1だろ?」

私がピアノを再開してから、惺くんに紹介してもらった新しいピアノの先生とのレッスン。

外国人の先生ではあるが、日本語も話せるルイス先生。

「私の苦手な分野だからです」

「つまりそれを克服したいということ?」

「はい」

「なら自分の得意なところと苦手なところを言ってごらん」

「私の得意なところは、音が綺麗で指が回ること。劣っているのは表現力です」

「ほう.....。何をもって表現力が劣っていると感じるのかい?」

「私には激しく差し迫って行くような迫力のある様子を再現することもできないし、人を惹き付けるように歌いあげることもできません」

「.....サヤ。ボクはね、キミに今1番必要なのはそんなことじゃないと思うよ?」

「え?」

「いいピアニストは誰しも必ず自分の売りを持っているんだ。サヤは自分の音に満足してるの?」

「音.....?」

「そう、音だ」

音には自信があった。

いろいろな人から音が綺麗とか、キラキラしてるとか、光沢があるとか、たくさん褒められたことがあるから。

「他の人より音には自信があると思います」