心にゆっくりと恐怖が近づいてくる。いやいや、まさか。この人が悪い人なんてこと、あるはずない。

「どうかしましたか?」

男性が訊ね、私は「何でもないです」と笑顔を作る。そして再び歩き出そうとしたその時、素早く男性に腕を掴まれ、首筋に冷たい何かを当てられた。

「……声を出すな。声を出したらナイフでグサりだからな?」

男性に誘導され、私は人気のない裏路地へと連れて行かれる。怖い。この人が私を狙っている犯罪者なのかな。これから、どうなるんだろう。

私は裏路地の壁に押し付けられ、男性に服のポケットなどを触られる。ボディチェックだろうけど、私の体は触れられるたびに恐怖で震えた。

私が危険なものを持っていないとわかると、男性は私にナイフを突きつけたまま、どこかに電話をかけ始める。

「もしもし。スタークです。女を捕らえました。すぐにイギリスに連れて行きます」

誰と電話をしているんだろう……。私は今にも倒れてしまいそうになる。助けて……。