――…途端の柔らかな声に、耳が「彼」の存在を理解する。

825号室は個室らしい。閉め切られたカーテンが開く音が聞こえた。



「青葉、調子どう?」

「……、理央…」

「青葉先輩、わたしもいます」

「っ!」



――…彼は、顔色があまり良くないようだった。

いつも見ていた青葉先輩よりも少しほっそりとして、ちゃんと食べているのかと心配になる。



「青葉先輩、ちゃんとご飯――…」

「何で来た」

「え、」

「何で来たんだって聞いてんだよ」



――…その冷たく突き放すような声と

目に光を宿さない無表情は、わたしの心を締め付けるには十分すぎるもので。




わたしが一瞬たりとも見たことのない、知らない、彼だった。