「“……笹森ちさきです、この間は声をかけてくださってありがとうございました”、とかからかな。…まだお仕事終わってないかな…」



その日の夕方。


今日は部活がないのですぐさま帰ってきたわたしは、部屋で自分の携帯を目の前にして、ぶつぶつ独り言を繰り広げていた。


携帯の横には1枚の名刺。――…青葉先輩のお姉さん、あやめさんのもの。


あんまり夜分遅くになってしまっても申し訳ないし、今はこの前会った時間帯をちょっと過ぎた頃だ。かけても大丈夫だろうか。



(…っなんて、考えてる時間がもったいないやっ)



――…たとえばお父さんは、初心者の子にバレーを教える時「まずやってみろ」と言う。

考えるのはやってみたあとでいい。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだと。



…青葉先輩に笑顔でいてほしい。その気持ちはやっぱり、いつだって変わらないから。

ひとつ呼吸を置いてからボタンをタップする。さっきまでのあれこれ考えていたことは、もう吹っ飛んでしまった。