今日、私は大学の友達と久しぶりに会って話すことになった。夕方に帰るつもりだったんだけど、話が楽しくて結局友達と入ったカフェを出たのは夜の八時を過ぎてから。

「もしかしたら、遅くなるかもしれません」

そうホームズさんとワトソン先生には言ってあるので、夕食の心配などはいらない。私は家に向かって急ぎ足で帰っていた。

今日は綺麗な満月が輝いている。満月の夜は事件が多いと小説か映画で目にしたことがある。何も起きないといいんだけど……。

私が歩いていると、「こんばんは。マドモワゼル」と声をかけられた。マドモワゼルってフランス語?

私が振り向くと、黒いコートをおしゃれに着こなした紳士がいた。でも、英国紳士とはどこか雰囲気が違う。絹のような髪がふわりと夜風に揺れ、整った顔立ちに私はドキッとしてしまった。

「こ、こんばんは。どうされましたか?」

私がドキドキしながら訊ねると、男性は私にゆっくりと近づく。不思議と後退りをしたりはしなかった。ただ、男性が近づくのを待つ。