「邪魔してすんませんね。まあ、三実さんが幾子お嬢さんを幸せにでけへんのなら、実の兄はいつでも迎えにくるんでおきばりやすっちゅうことをお伝えしときます。ほななぁ」

諭はニッと笑い、私たちから離れた。

「諭!」

駅の方向に向かう諭に声をかける。

「私、諭がお兄ちゃんで嬉しい!ずっとそう思ってきたから!」

遠くなる諭に叫ぶみたいに言った。

「俺も、幾子が妹で嬉しかったで。出会った時から!」

大声ではずかしげもなく言う諭を見送った。明日の会食じゃこんな混み合った話できない。だから、わざわざ伝えにきてくれたのだ。
長く一緒にいた人が実の兄だった。
そんなことをお嫁入りしてから聞くなんて。驚いたことの百倍嬉しい。

「なるほど、確かに鼻筋と口元が似ている」

三実さんが納得したように言うので、私は振り向いて彼を見上げた。

「嫉妬しなくていいそうですよ」
「いや、実の兄でも俺以外の男が幾子と親しいのは腹が立つ。悪いが、嫉妬は今後もするだろう」

堂々と宣言され、私は苦笑いした。まあ、いいか。影で腹を立てられているより、表立って嫉妬していると言われた方がわかりやすくていい。

「三実さん、今日は楽しかったです。確認ですが、今夜から家に戻ってくれますか?」
「ああ、修行と思って頑張ろう」

私に手を出さないようにする修行。そんなことを言ってくれるこの人を少しだけ可愛いと思った。私より十二歳も年上なのに。