動物園から出ると、携帯電話が振動していることに気づいた。諭からの着信だ。
なんだろう。三実さんに気を遣いつつ断って電話に出た。

「諭?」

諭の明るい声が聞こえる。

『幾子お嬢さん、今から出られへん?俺と社長、東京に着いたんやけど』

父も一緒?それは嫌だし、今さっき三実さんの嫉妬の気持ちを知ったばかりだ。

「ごめんなさい。今、三実さんと出かけてるから」

断ろうとすると、諭が言う。

『ああ、ちょうどええわ。どこにおる?少しだけ、ふたりそろって顔貸して。行くの俺だけやから』

首をひねりながら上野だと伝えると、諭はすぐに到着した。不忍池のほとりで待っている私たちの元へ駆けつけた諭はスーツ姿だ。仕事で来ているのに時間は大丈夫なんだろうか。

「諭、仕事なんでしょう?」
「ちょっと抜けてきた。アポイントまで時間あるから」
「明日会食で会えるのに」
「いや、前回からちょっと気になってることがあってな。……三実さん、ちょっと見てくれはります?」

諭がいきなり私の腕を引き、肩を抱き寄せた。頰と頰がぴったりくっつく。
さすがに私も驚いた。中学に上がった歳から一緒にいるので、仲がいいにしても頭を撫でてもらうくらいの接触しかしたことがなかったのだ。

三実さんの瞳がギランと光る。私は血の気が引く想いだ。
せっかく三実さんと思いの丈を打ち明けあったばかりなのに!

「さ、諭!ちょっと」
「三実さん、俺と幾子お嬢さん見て、どう思います?」