「そんな……」

否定しようとしつつ、ずっと感じていた息苦しさと、先日の諍いを思い出し気分が暗くなった。本当にわけがわからないのだ。金剛三実という人は。

「まあ、あんな男でも人間だ。嫌なことは言葉にしてきちんと怒った方がいいと思うね。あんたがあいつの女房なら」
「怒るだなんて」
「怒ってんじゃないのかい、若奥様。ずっと不機嫌なツラして」

怒る。私は確かに今、怒っているのかもしれない。植松さんに言われて思いいたる。
じゃあ、何に怒っているんだろう。

諭との関係を言われたこと?強引に抱かれそうになったこと?

いや、私が怒っていたのは、三実さんがあの夜から対話を避けて、私の前に姿を現さなくなったことだ。

臭い物に蓋じゃないけれど、関わりをやめるなんて卑怯だ。嫌になったなら、そう言えばいい。やはりいらないと思うなら、面と向かって離婚しようと言うべきだ。

わけがわからない。ここ二年もそう。プレゼントも褒め言葉も用意しておきながら、私の心に触れようとはしてこない。紳士的に振舞い、上っ面の笑顔ばかり見せて、野獣のような本性を隠している。隠しきれずに漏れ出た野生に、私はびくびくしてばかり。
これが夫婦の在り方なの?
ずっとたまっていた苛立ちが噴出してきている。ああ、私は結構ストレスが溜まっていたんだわ。あの得体の知れない夫に。

「植松さん、ありがとうございます。なんか、ちょっと整理できてきたかもしれません。三実さんと、話す機会を作りたいと思います」
「おう、そうしろそうしろ。あの人、見かけに寄らず寂しがりなところがあるからな。そこは味方になってやってくれ」

寂しがり?全然そんなふうに見えないけれど。
心の中で反論しつつ、私は鶏の世話を続けた。