「三実さんは変わり者だからなァ」

植松さんが鶏の声に負けないように声を張った。

「変わり者なんですかぁ?」

私も鶏に負けないように叫ぶ。三実さんから感じる異質な気配。それはやはり事実なのだろうか。

「上のふたりとは年の離れた末っ子だからなぁ。旦那も奥様も兄さんたちも可愛がったけれど、本人は金剛のど真ん中には立てないって早くから感じてたんだろ。よく、俺んとこ来て、一緒に草刈りなんかしながら言ってたよ。『僕は僕の力で居場所を作るんだ』って」

どきりとした。居場所。私もずっとそれを探してきた。
植松さんは餌箱に私の手から受け取った餌をざっと入れた。鶏たちが私の足から離れ、餌箱に突進していく。

「頭がすこぶるいいから、何やらせても上手なんだと奥様が言ってたよ。学校を出てすぐに自分で会社立ち上げてな。だけど奥様が亡くなって、当時の婚約者とも揉めて、あのあたりからあんまり感情を見せなくなった様子はあるな」

当時の婚約者。初めて聞いたワードに私は固まった。まったく知らなかったけれど、三実さんには婚約までいった女性がいたの?

「ありゃ、婚約者っつうのは言っちゃまずかったかな。七・八年前のことだからもう時効だろ。気にすんな、若奥様」
「ええ、それは。……植松さん、よく見てらっしゃるんですね」
「まあ、行きがかり上な。あんたみたいに俺んところを息抜き場所にしてる節があったから、三実さんは。こまっしゃくれたガキだったさ。腹ン中であれこれ計算しておいて、上っ面は明るく陽気な末っ子のフリをしていやがる。今でもそういう感じだな」

植松さんがにやっと笑った。

「三実さんといたら、空気が濃すぎて苦しいだろ。何考えてんのか、わけわかんねえしなぁ」