あの夜から一週間が経った。三実さんはまったく私に関わってこなくなった。

まず朝食の席に顔を出さなくなった。忙しいという旨は家族に伝わっているらしく、兄の一久さんは「寂しい想いをさせていないかな。困った弟ですまない」と苦笑いで気遣ってくれた。私は首を振るばかりだ。

職場に行っても、まず社長である彼を見かけない。麻生ご夫妻には時々用事を頼むらしいけれど、私に直接何か連絡はこない。

家にいてもそうだ。まず、三実さんは離れに近づこうとしなくなった。以前は遅くとも私の横で休んでいたのに、すっかり姿を見せなくなった。

私の生活に夫となった人がすっぽり抜け落ちた。
すべて私の拒絶のせいなのはわかっている。彼に迫られ、拒否してしまった。初夜以来の機会だったのに、私が駄目にしてしまった。だけど、あんな冷たい目で欲求を満たすためだけに触れられたくなかった。

政略結婚でも、彼が私にたいした興味がなくても、それでもお互い気遣いあった上で抱き合いたかった。
夫婦なんだもの。

「おしまいかなあ」

声に出ていたようで、植松さんが振り向いた。

「なんだァ、若奥様。三実さんと喧嘩でもしたか?」

私はびっくりして我に返った。せっかく鶏舎の世話を手伝わせてもらっているのに、ぼーっと三実さんのことを考えていて恥ずかしい。

「そういうわけじゃないんです……本当に」

しどろもどろで答える私に重たい餌の袋を押し付け、植松さんは奥から餌箱を引きずってくる。餌の気配に、鶏たちはすでに私の足元に鈴なりだ。コケコケとけたたましい鳴き声に耳が痛い。