でも、私は決めたのだ。彼を受け入れようと。それが妻の仕事なのだと。だから、これでいい。私はこの人のものになる。

「幾子、昼間は楽しかったかい?」
「え?」

昼間、諭との食事の件だろうか。答えるより先に、彼の手が私のパジャマのパーカーに侵入してきた。お腹に彼の熱い手が触れている。

「日下部諭……。おまえの兄代わりか。ずっと一緒にいたと……なるほどなるほど」
「三実さん、私と諭のことでしたら……妙な関係ではありません。本当に!誓って!」
「それはそう信じたいけどね。でも月日の培った絆というのはどうにも。……羨むを通り越して嫉妬で狂いそうだよ」

そう言って、三実さんは暗闇の中微笑んだ。

「妻教育も俺の仕事とは思うが、ああも仲の良い姿を見せられ気分よくもいられない。そうだなあ……」

三実さんが私に顔を近づける。もう少しでキスできそうな距離だ。
結婚式が神式だったので、誓いのキスを経験していない。まだ誰ともキスをしたことがない。だから、吐息がかかるほどの距離に身がすくむ。しかも相手は私を食い殺しそうに見つめている。

「やっぱり、一刻も早く俺の子を産んでもらおう」
「みつ……ざね……さん」
「逃がさない。幾子は俺の子を産んで、死ぬまで俺のそばにいればいい」

この人は、どういう気持ちでこんなことを言うのだろう。三実さんから感じるのは、怒り、苛立ち、焦燥。そして欲。
私は怒りをぶつけられるように抱かれるの?
初日の恐怖とは違う感情が湧いてくる。

「今日は嫌です」

初めてはっきりと言葉にした。だけど、声は情けないほど震えていた。

「どうして?俺の妻だろう?」

パジャマの中の三実さんの腕がするりと裸の腰に回り、私を抱き寄せようとする。

「嫌です!」
「聞けないな」

噛みつくように首筋に彼が食らいつく。痛みじゃない。ぞくりとする熱い唇の感触。