猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「買い物や観劇、友人と食事。兄嫁たちはみんなそうして自由に過ごしているぞ。幾子も俺に遠慮せず、外に出ていいんだ。手配は周りの者に頼めばいい」
「あ、の、……ありがとうございます」

服飾に興味が薄いせいか買い物が好きというほどではない。観劇や映画だって、毎日見てまわるほど興味はない。友人はすべて京都だ。小学生時代の友人は東京にいるけれど、いまだに連絡をとれるような間柄じゃない。

「何か……このおうちの中でできるお仕事はありませんか?」

おそるおそる言ったけれど、小さくて消え入りそうな声になってしまった。
私は専業主婦になるつもりで嫁いできた。夫の仕事を支えるために、家事全般を引き受けるつもりできた。
しかし、けた違いのお金持ちの家で、若妻のする仕事はなかった。
私は毎日楽しく暮らして、早く子どもを産むことが役目なのだろうか。

「そうか」

三実さんがぱっと目をみひらく。

「幾子は退屈しているんだな」

退屈。言葉にしてしまえばそれだ。お嫁にきたばかりで生意気だから言えなかったけれど、私はやることがなく、話す人もいなくて退屈なのだ。

「家業を手伝っていたので……手持無沙汰といいますか……」
「わかった。それなら、週に何度か俺の会社にくればいい」

三実さんが名案とばかりに表情を明るくした。それは仕事をしにこいということだろうか。

「ちょうど人手が足りない部署がある。幾子の退屈がまぎれ、業務がすすむならいいことづくめだ」

もう決めた様子の三実さん。
仕事……そうだ。家の中にやることがないなら、外に出るのは正解だ。しかも三実さんの会社なら、金剛家的にも問題ないかもしれない。