猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「おうち同士の決め事で、もらってくださったんでしょうけれど、三実さんから見たら幼く面白くない妻でしょう。うちの父などに気を遣う必要はありませんから、お嫌なようでしたら離縁も……」
「離縁なんかするものか」

おそろしく低い声だった。暗い気配を感じさせた。ひやりと背筋が寒くなるような。
彼の顔を凝視すると、三実さんはにっこり微笑んでいた。今の一瞬の空気はなんだったんだろう。

「俺は幾子に惚れているんだよ。おまえが安楽に暮らせるように尽くしたいと思ってる。だから、幾子は何も心配せずにここにいればいいんだ」

明るく笑い飛ばして、三実さんが言った。
愛の告白なのに、まったく他人ごとのように響いた。ああ、まただ。この人に感じる違和感はこういう時に顕著。

三実さんは何を考えているんだろう。ともかく私を疎んで妙な行動をしているわけじゃなさそうだけれど。

「ところで幾子」

彼が続けて言った。

「植松老人のところへ行っていると聞いたぞ」

ぎくりと固まった。お手伝いさんふたりから報告が行ったのだ。
どうしよう。直接怒られてしまうかしら。私はいいけれど、植松さんまでお咎めがいくかしら。

「鶏の世話に興味があるのか?」
「え……生き物が、割と好きで……。あとひよこが……」
「ああ、ひよこな。俺も子どもの頃、よく触りに行った」
「養鶏場に行くのはいけませんか?」

私の問いに、三実さんは首を横に振った。

「いいや。幾子が興味を示したならいい。手伝いのふたりにはそのくらい許してやれと言っておく」
ほっとした。思ったより柔軟だ。理解できない人だけど、杓子定規に私を縛ろうというつもりはないみたいだ。