猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「若奥様に雑用頼んだら俺が怒られちまうよ」
「またひよこを見にきたいので、何かお手伝いの口実があればと思いまして」

ご老人はなるほどを頷き、少し考えてから鶏舎の掃除の仕方を教えてくれた。
その日は、日が暮れるまで鶏舎で過ごした。離れに戻ると、夕食の準備は整っていて、三実さんは今日も遅いと連絡がきていた。

「奥様!」

すっかり薄汚れた私を見て、曽根崎さんが渋い顔をしていた。


翌日、朝食を終え三実さんを見送ると、お茶を淹れにきた甲本さんに釘を刺された。

「奥様、また植松さんの鶏舎に行く気じゃございませんよね」

そうか、あの鶏舎のご老人は植松さんというのか。お手伝いさん同士で情報共有がされているようだ。
鶏舎に行っちゃだめなのだろうか。ひよこが見たいんだけどなあ。
という言葉をしまって、遠慮がちな笑顔を作る。

「養鶏を初めて見たんです。とても面白いですね」
「お暇なようでしたら、御本でもお買い物でも手配いたします。あまり泥仕事のようなことは……」

金剛家のお嫁さんは、養鶏場の掃除をしたりしちゃいけないみたいだ。
百貨店にでかけてお買い物はいいけれど、鶏舎でひよこと戯れてはいけないみたいだ。

「じゃあ、今日はお庭のお散歩のついでに覗くだけにします」
「そうなさってくださいませ」

昨日も覗くだけといって中に入ってしまったことを甲本さんは知らない。逆らうつもりはないけれど、ひよこと触れ合うくらいは許してほしいものだ。
午前中のうちに養鶏場までいくと植松老人が餌の箱を運んでいる。

「おう、若奥様、これから餌やりだぞ。見ていくか」
「はい!」

私は自分から柵を開けて中に入っていった。
お昼に離れに戻ったとき、甲本さんがぎょっとした顔になったのは言うまでもない。