「おはよう」

ようやく到着だ。三実さんが明るく声をかけ室内に入ると、広間には家族が勢ぞろいしていた。
お義父さん、一久さんご夫妻、次郎さんご夫妻とそのお子さんの中学生くらいの女の子がふたり。昨日の結婚式には、三実さんの甥姪が他に何人もいた。成人して家を出ているときいている。つまりは私と同じくらいか年上だろう。

「おはよう。幾子さん、よく眠れたかな」

上座に座ったお義父さんが声をかけてくる。私は慌てて返事をした。

「はい、お陰様でぐっすりと眠れました」
「俺が起こすまでよく眠っていましたよ」

三実さんがほがらかな口調で口を挟む。私、あなたをぶん殴って拒否した挙句、気絶しちゃったんですが……。その辺は言わないでいてくれるのでしょうか。

「それはよかった。慣れるまでしばらくはかかるだろう。どんどんこの家を見て回りなさい」
「はい、ありがとうございます」

私と三実さんの前に懸盤にのった朝食の膳がしつらえられた。

「さあ、皆いただこうじゃないか」

お義父さんの声に合わせ、家族全員が手を合わせる。私も倣って手を合わせた。いただきます。
朝食を終えると、またふたりで離れに戻ることになった。廊下を三実さんの後に続いて歩く。こんな広いお屋敷では、ひとりで離れに帰れない。

「朝食の量が多ければ、手伝いの誰かに伝えておくといい。昼食も用意してくれる。夕食は俺が早く帰れれば一緒に食べよう」

昨夜のことなんかなかったみたいにすらすらと喋る三実さん。離れに近づいた廊下で、私はとうとう声をあげた。

「あの、昨晩のことは」