「身内と母の恋人の会社関係者だけの小さなパーティーです。存分に母と対決してください」
「楽しみだ。腕が鳴るな!」

本当に楽しみにしている様子の三実さんを見て、思わず笑ってしまう。

母の結婚式を追えたら、イタリアを一週間かけて回る。美味しいものを食べ、見たいところはすべて見て、ふたりっきりで離れずに過ごすのだ。
旅行の醍醐味は、誰の邪魔もされずにふたりでいられることだと思う。

「楽しんできましょうね」
「ああ、幾子との思い出がまた増えると思うと胸が躍る」

私は三実さんの肩に頭をもたせかけ、幸せを噛みしめる。

この先どんなことがあっても、私たちは一緒。
家族が増えるかもしれない。ずっとふたりきりかもしれない。大変な病気があるかもしれない。片方が片方を見送る日もくるだろう。

すべてはあるがままでいい。今はそう思える。

この人のパワーに負けないように、私も生きて行こう。並んで、遅れをとらないように、いつまでも笑って行こう。
猛獣みたいな旦那様とずっとずっと一緒に。

搭乗案内のアナウンスが流れる。

「さあ、旅の始まりだ」

三実さんが意気揚々と言った。



(了)





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2019.12.24
砂川雨路