猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

『俺の子どもをたくさん産んでほしい』

三実さんの言葉が蘇る。三実さんは赤ちゃんを希望している。
それはそうだ。三男とはいえ、金剛家の人間だ。一族の繁栄はもとより、自身の会社の後継だって考えるに違いない。子どもを望んで当然だ。

「私でいいのかしら」

もしかしたら何年も待たせるかもしれない。その上で赤ちゃんに恵まれないかもしれない。
私ひとりのことならいい。だけど、三実さんはどうだろう。
赤ちゃんを授からなくても、私のことを望んでくれる?
もし望んでくれても、愛し続けてくれても私は割り切れる?三実さんの遺伝子を残したい。もし駄目なら離婚して、別な女性と……。

「幾子」

名前を呼ばれて、私ははっとした。そこには帰宅してきた三実さんの姿。随分早い。

「おかえりなさい!早かったんですね。ああ、ごはんの仕度!」

小一時間もぼんやりしていたせいで、食事の仕度は始まってすらいない。

「食事の仕度はいい。外に食べに出よう」

三実さんは変わらず明るい笑顔で言う。
その太陽のような光を眩しく切なく見つめながら、私はのろのろと立ち上がった。


三実さんの車で出発すると、すでに辺りは暗い。暖冬とはいえ寒さの厳しい二月。日が落ちると冬を実感する気温だ。
近くで食べるのかと思いきや、車は首都高に乗る。どこへ向かうのだろう。