気分が暗く、そのままマンションに帰りたくなかった。おまんじゅうを買って、金剛家に寄ることにする。時刻はすでに午後一時だ。
信士くんと植松さんが、それぞれ頭陀袋と鎌を持って庭を闊歩していた。信士くんは帰りが早い日は、植松さんのところか我が家に寄ることが多い。
「何してるの?」
「あ、幾ちゃんだ!」
「草刈りだよ。バッタがみつかったんだよな、坊ちゃん」
「幾ちゃん、バッタ見たい?」
明るい声のふたりに癒される。だけど、心の奥に重たいしこりがある。
「バッタもいいけど、ちょっとお茶しましょう。私、おまんじゅう持ってるの」
植松さんと食べようと持参したおまんじゅう。多めに買ってよかった。
「幾ちゃん、今日はお出かけしてきたの?」
離れの縁側に移動して、お茶を淹れる。
信士くんが無邪気に聞いてくる。
「うん、ちょっと病院」
言ってしまってから心配させるようなことだったと焦った。案の定信士くんは不安そうに私の顔を見上げている。
「幾ちゃん具合悪いの?」
「なんだぁ、若奥様。風邪か?」
言わない方がいい。しかし、お腹の中にたまった不安が膨れて苦しい。私はこぼれるように言葉にしていた。
「早く赤ちゃんができないかなあって」
すかさず植松さんが尋ねてくる。
「どっか悪いところがあったか?」
「そういうんじゃないんです。むしろ、まだ全然わかんないっていうか」
私の答えに、植松さんが優しい声音で言う。
「授かりモンだからなあ。親の希望通りにゃいかねえよ」
「ですよねえ」
「若奥様、あんまり気に病むなよ。安易なことは言えねえがな」
信士くんと植松さんが、それぞれ頭陀袋と鎌を持って庭を闊歩していた。信士くんは帰りが早い日は、植松さんのところか我が家に寄ることが多い。
「何してるの?」
「あ、幾ちゃんだ!」
「草刈りだよ。バッタがみつかったんだよな、坊ちゃん」
「幾ちゃん、バッタ見たい?」
明るい声のふたりに癒される。だけど、心の奥に重たいしこりがある。
「バッタもいいけど、ちょっとお茶しましょう。私、おまんじゅう持ってるの」
植松さんと食べようと持参したおまんじゅう。多めに買ってよかった。
「幾ちゃん、今日はお出かけしてきたの?」
離れの縁側に移動して、お茶を淹れる。
信士くんが無邪気に聞いてくる。
「うん、ちょっと病院」
言ってしまってから心配させるようなことだったと焦った。案の定信士くんは不安そうに私の顔を見上げている。
「幾ちゃん具合悪いの?」
「なんだぁ、若奥様。風邪か?」
言わない方がいい。しかし、お腹の中にたまった不安が膨れて苦しい。私はこぼれるように言葉にしていた。
「早く赤ちゃんができないかなあって」
すかさず植松さんが尋ねてくる。
「どっか悪いところがあったか?」
「そういうんじゃないんです。むしろ、まだ全然わかんないっていうか」
私の答えに、植松さんが優しい声音で言う。
「授かりモンだからなあ。親の希望通りにゃいかねえよ」
「ですよねえ」
「若奥様、あんまり気に病むなよ。安易なことは言えねえがな」



