「検査薬で調べてからにしますよ。そんなに急がなくても。あまり検査が早いとわからないって聞いたことがありますし」
「いや、俺が気になるんだ。頼む。行こう」

熱心に言われ、私は頷くしかない。喜んでくれているのは間違いないし、一刻も早く知りたいと思うのは当然かもしれない。



私たちはマンションを出て、タクシーでその医院を目指した。金剛家お抱えの先生は一般の開業医もやっているらしく、到着したのは古い日本家屋の個人医院だった。都心部のビルとビルの間にぽつんとあるからこそ、昔からここに根を張ってきた病院なのがわかる。
事前に電話を一本入れただけで、お医者様と看護師の奥様が待っていてくれた。

「産科は専門じゃないけど、調べることはできますよ」

六十代とおぼしきお医者様は言う。まずは尿検査をし、その結果を聞くことなく内診のためにベッドに横たわる。
器具を入れられたり、触診されたりはあまり気分のいいものじゃないけれど、こういう検査が必要なら仕方ない。
ひと通り検査が終わり、三実さんと並んで結果を聞くことになった。

「結論から言うと妊娠はしていません」

その言葉で私も三実さんも肩から力が抜けてしまった。先走り過ぎて恥ずかしい。やっぱり検査薬を試してからにすればよかったなあ。
横をちらりと見る。三実さんは落胆しているかもしれない。赤ちゃんができてるかもって思ったら、食事どころじゃなくここに連れてきてくれたくらいだもの。
だけど、私の本音は少しだけほっとしていた。嫁いで半年。まだ赤ちゃんを育む自信はない。妻として仕事も家事も基盤をしっかりさせてからにしたい。なにより、私自身まだ心は高校生の頃からあまり変わっていない気もする。もう少し精神的に大人になってからがいい。

「内膜も厚くなっていますし、間もなく月経が来るはずです」
「早合点してしまいました。次は検査薬で調べてからにします」

苦笑いしてみせる私に、お医者様が、ふうんと顎を触りながら、超音波検査の画像を液晶画面で確認する。