食事が始まってすぐに父が言った。
「実はな、諭を正式な後継者として公表することにした。いいか?幾子」
今日の食事は父からの提案だった。仕事でこちらに来るからと。でも、本題はこのことだったのだ。諭を実子と認め、跡継ぎにする。私の気持ちを考えて会いに来たのだ。
「よかった。遅すぎるくらいよ、お父さん」
私の反応に父はほっと息をつく。私はすでに嫁いだ身。実家のやりくりは任せるべきだ。
「苗字は日下部のまんまやけどな。一応、表向きにもおまえの兄を名乗れるわぁ」
諭がのん気に言う。
「それでは、今後の提携事業のお話は諭さんと進める形になりますね」
三実さんが横から言い、私が驚いた。
「いつの間にそういうことになっていたんですか?」
「いや、最近だよ。諭さんと連絡を取り合いながらね。関西の商圏に明るくないから、うちとしては甘屋に手を借りたい」
「吸収合併やないから安心してな」
私の結婚が当初はなかった業務提携のきっかけになったのだ。双方にとって悪くない話ならいいことだ。
「甘屋の後継の話で、先日琴子に連絡を取ったよ」
父の口から別れた母の名前が出る。父から連絡を取るなんて、以前なら考えられないことだ。
「甘屋を諭に継がせることについては問題ないそうだ。イタリアで結婚すると聞いたよ」
「ああ、そうなの」
父としては複雑だろうか。しかし、父はどこか清々しい表情で言う。
「ずっと琴子と付き合っていた人なんだろう。よかった、幸せになってくれて」
「三月に結婚式だって言ってたわ。私もイタリアまで行ってくるね」
「よろしく伝えてくれ」
私と両親は普通の家族にはなれなかった。離れるしかなかった。
でも、別な道を行きながら互いの幸せを願えるなら、それもひとつの形なのかもしれない。結婚という枠組みを排除してようやく労りあえる関係もあるのだろう。
「実はな、諭を正式な後継者として公表することにした。いいか?幾子」
今日の食事は父からの提案だった。仕事でこちらに来るからと。でも、本題はこのことだったのだ。諭を実子と認め、跡継ぎにする。私の気持ちを考えて会いに来たのだ。
「よかった。遅すぎるくらいよ、お父さん」
私の反応に父はほっと息をつく。私はすでに嫁いだ身。実家のやりくりは任せるべきだ。
「苗字は日下部のまんまやけどな。一応、表向きにもおまえの兄を名乗れるわぁ」
諭がのん気に言う。
「それでは、今後の提携事業のお話は諭さんと進める形になりますね」
三実さんが横から言い、私が驚いた。
「いつの間にそういうことになっていたんですか?」
「いや、最近だよ。諭さんと連絡を取り合いながらね。関西の商圏に明るくないから、うちとしては甘屋に手を借りたい」
「吸収合併やないから安心してな」
私の結婚が当初はなかった業務提携のきっかけになったのだ。双方にとって悪くない話ならいいことだ。
「甘屋の後継の話で、先日琴子に連絡を取ったよ」
父の口から別れた母の名前が出る。父から連絡を取るなんて、以前なら考えられないことだ。
「甘屋を諭に継がせることについては問題ないそうだ。イタリアで結婚すると聞いたよ」
「ああ、そうなの」
父としては複雑だろうか。しかし、父はどこか清々しい表情で言う。
「ずっと琴子と付き合っていた人なんだろう。よかった、幸せになってくれて」
「三月に結婚式だって言ってたわ。私もイタリアまで行ってくるね」
「よろしく伝えてくれ」
私と両親は普通の家族にはなれなかった。離れるしかなかった。
でも、別な道を行きながら互いの幸せを願えるなら、それもひとつの形なのかもしれない。結婚という枠組みを排除してようやく労りあえる関係もあるのだろう。



