幸せだ。政略結婚だと思い込み嫁いできた夫に、どうしようもなく愛される日々。
自分の人生にこれほどの愛が溢れると、十代の私は予想だにしなかった。


「今夜はアオクラホテルに十八時ですからね」

結局ブランチになってしまった朝食を食べながら私は言う。

「ああ、覚えてる。諭さんとお義父さんとディナーだ」

三実さんは景気よく三杯目のお替わりにお茶碗を差し出している。
今夜は仕事でやってくる父と諭と四人でディナーなのだ。家出騒動以来に会えるので私はわくわくしているし、三実さんも『幾子とはラブラブです』とアピールすると張り切っている。

「フレンチでよかったか?」
「問題ないです。私もアオクラのフレンチ、楽しみです。自分で作れるものじゃないですからね」
「幾子の料理は美味い。作れそうだがな」
「無理ですよ~。本当に基礎の基礎しか習ってないんです」

それに、先生に習った丁寧で綺麗な和食より、寒河江さんに習った煮物や佃煮の方が三実さんのウケがいい。さっきも朝食を頑張らなくていいから、休みの日は一緒に寝ていたいって言われたものね。
料理や家事を気張るより、それが自然体になるようにしていく方がいいのかもしれない。
そのうち、赤ちゃんが産まれたら、料理に今ほど手はかけられなくなりそうだし。