「信士から父親を奪う気?この子には父親が必要なのよ」

私は眦を決して、彼女を見つめた。

「私にも三実さんが必要です。私の人生に三実さんがいないのは困ります。世界でただひとり、私が恋した人なので」

言葉にすると胸に勇気が湧いてくる。私は三実さんが好き。
初恋で、始まったばかりだから自信もない。
だけど、三実さんが好き。一生一緒にいたいし、隣を誰かに譲る気もない。
三実さんの妻の座は私が守るべきもので、私が選んだ道だ。

ふと、後ろで「くっ」という呻きが聞こえ、振り向く。そこには胸を押さえた三実さんがいるではないか。

「三実さん!?」

どうやら今の言葉は聞こえていたらしい。三実さんは見たこともないくらい頬を赤くして、照れた顔を必死に律しようと眉をしかめている。私の言葉が嬉しかったのは間違いない。

「幾子、ありがとう。志信、いくつか話がある。信士も聞いてほしい」

三実さんがまだ赤い頬のまま進み出てくる。

「信士は俺の子ではない。正式で鑑定させてもらった」

書類を志信さんの手に渡す。愕然とした表情をする志信さん。彼女だって、押し通せないとはわかっていたはずだろうけれど、ごまかしようのないものを突き付けられ、凍り付いている。

「信士の父親も探し出したぞ。今、名古屋にいる。信士が二歳の時に、志信が連れて消えてしまったから、彼もおまえたち親子を探していたそうだ」

三実さんは信士くんの父親を捜索していたのか。時間がかかると言っていたのはそのせいだろうか。