猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「三実さん、ごはん作らなきゃです」
「ああ。わかってる。あと一分だけ」

一分でいいのだろうか。このままベッドに連れ去ってくれてもいいんだけれど。言いたいことは恥ずかしくて言葉にできない。

「三実さん」
「愛しい、今すぐめちゃくちゃに抱いてしまいたい」

私もあなたのことをめちゃくちゃにしてしまいたい。私のために耐えてくれている三実さんを誘惑してしまいたい。

『好き』とは伝えずに、愛欲に負けてしまう彼が見たい。そんな意地悪でゾクゾクするような感情は初めてだ。ものすごく愛しい。愛しいが過ぎるとこんな気持ちになるの?

何かで読んだことがある。
キュートアグレッションという言葉がある。愛しくて可愛くて傷つけてしまいたい気持ちになることがある。それは心の防衛本能らしいけれど、三実さんはずっとそんな気持ちだったのかしら。今ならよくわかる。
三実さんが愛しくて、一途な想いがいじらしくて、ちょっとだけ意地悪してしまいたい。

「ごはんを作るので、ここまでです」

自分の矛盾しながらもしっくりくる感情に気づく。私、ものすごくこの人に夢中なんだ。
そろりと離れながら、身体の奥に本性を隠す愛しい獣の頬を撫で、私はとびきり優しく微笑んだ。

「もう少し、待っててくださいね」
「ああ、待ってるよ」

三実さんの熱を孕んだ瞳を心地よく感じながら、私はサンダルを脱いだ。