三実さんは足で襖を開け、寝室に私を運んだ。そして、布団の中央にどさりとあぐらをかくと、ひざに抱きかかえたままの私の顔を覗き込む。
灯りのついていない寝室。窓から月灯りがさあっと室内を照らした。

心臓が止まりそうになった。
私を抱きかかえていたのは、あの日見た獣だった。

「幾子」

ぎらぎらと光る瞳。低く私の名前を呼ぶ唇は今にも私に食らいつこうと涎を垂らしているかのように見える。
不意に彼が私の首筋に顔を埋めた。

「きゃ」

耳の下に口付けられて、身をすくめた。
熱い唇だ。心臓がどくんどくんと痛いほど鳴るのはときめきではなく恐怖。
彼の手で布団に降ろされた。覆いかぶさる身体。月灯りは見えない。

「極上だ」

獣が舌なめずりをするような表情が逆光でもよく見えた。
手が震え出した。本能的にじりと後退ってしまうのを必死で耐える。

「どれほどこの日を待ちわびたか」

獰猛な笑顔は喜びと興奮を噛み殺しているように見える。

言わなきゃいけない。
男性とこういう関係になったことがないので、不安なのです。
今日はご容赦いただけませんか?
きちんと相談しなければ。私たちは夫婦なのだから。

「幾子、抱くぞ」

大きな大人の手が私の浴衣の襟を掴んだ。
短い悲鳴しか出なかった。おそらく私は顔面蒼白でぶるぶる震えている。

怖い。怖い。
言えない。言葉が出てこない。